モンテッソーリ教育とは?

“モンテッソーリ教育 = モンテッソーリ教具”ではありません。

大人が子どもをどう見るか、どのように援助するか、その見方、援助の仕方がモンテッソーリ教育の本質です。

モンテッソーリ教育は約100年前にイタリアの女性医師マリア・モンテッソーリによって導かれた教育法です。子ども一人ひとりをよく観察することによって、子どもは自立に向かって自らを高めようとする力を持っていることに気づきました。

モンテッソーリ教育の土台は「日常生活の練習(生活)」という分野です。

モンテッソーリ教育は特別な教育方法ではなく、日常生活(生活)から始まります。

ひとりでできるように手伝ってね!

子どもが大人に求めていることは、「自分ひとりでできるようになる」ことへの配慮で、子どもの代わりにしてあげることではありません。

子どもが自分でできるように援助してあげることです。子どもに関わる大人は、子どもの自立を助ける援助者です。

子どもの「自分でできるようになりたい」という生命の衝動に合わせて、適切な時期に適切な援助を行うことで、穏やかで忍耐強い知性をそなえた人格が形成されると言われています。

人間が初めてする努力は、「自分でするっ!」と叫んで大人の手を払いのけ、自分ひとりでしようとする自立への努力です。

子どもが大人に求めていることは「わたしがひとりでするのを手伝って!」という自立への援助なのです。

〜エピソード〜

あるお母さんが男の子を抱きかかえて駅の階段を上がっていました。
男の子は「自分で!自分で!」と大きな声で泣き出しました。お母さんは急いでいる様子でしたが、階段の下まで戻りました。そして、男の子は一歩一歩ゆっくりと自分の足で階段を踏みしめながら、満ち足りた表情で階段を上がっていきました。

お母さんは急いでいたので、男の子が自分で歩く代わりに抱きかかえて上がったのです。

大人と比べると子どもの行動は時間がかかり、大人が代わりにした方が都合のよいこともあります。

しかし、それは大人の言い分であり、子どもが本来望んでいることではありません。

なぜお母さんはせっかく上まで上がったのに下まで戻ったのでしょうか。急いでいるのになぜ男の子に歩かせたのでしょうか。

お母さんの行動は、大人の都合よりも男の子の自分でしたいという気持ちを大切にした行動だったのです。

子どもが大人に求めていることは、「自分ひとりでできるようになる」ことへの配慮で、子どもの代わりにしてあげることではなく、

子どもが自分でできるように援助してあげることなのです。

“自分の行動については自分が主人公であるという感覚を持たせること”が大切なのは、次のような指摘があるからです。

他人から動かされていると認知している人は、実際には自分で自由にできる状況にあっても、自分の行動は他者から規制されていると考えてしまう傾向がある。例えば、細かいことまで親から口うるさく干渉されたり、細かい規則で拘束されたりしていると、「(親や規則に縛られて)どうせだめだろう」と思い込みがちになる。すなわち、他者から動かされてばかりで自己決定の機会が少ない環境にいると、自分は他人から動かされる存在であるという信念を形成してしまう。そして、これが無気力につながっていく。

もし、お母さんが階段の下に戻らず、先を急ぐことを優先していたらどうでしょうか。

男の子は同じような状況になった時、自分でしたいと思っても「どうせだめだろう」と思うようになるかもしれません。

また、自分は他人から動かされていると感じ、自分でしたい、自分でしようという意欲自体が低下するかもしれません。

自分で自分の行動を考え、自分の意思で選んだ、自分の行動については自分が主人公であるという感覚をもつことは自己に対する基本的信頼感を形成する上でも必要なことです。

“援助の手を少しずつ減らしていくこと”について、「しつけ」ということばを使って考えてみましょう。

「しつけ」ということばは、「礼儀作法を教える」という意味以外に、「着物を仕付ける」という意味でも使われます。

着物、浴衣、洋服などを縫う時、しつけ糸で仕付けをしてから縫います。縫い上がると不要になりはずされます。

しつけ糸は、やがては不要になり、はずされることが前提になっているのです。「しつけ」とは、ただ礼儀作法を教えることを言うのではありません。

しつけ糸のようにいずれは“はずされる”という意味も含まれているのです。

はじめは大人がしつけ糸の役割をして援助しますが、いずれはしつけ糸なく自分で生きていきます。

大人は、子どもが自分自身で考え、判断し、自ら行動できるようになるように援助し、援助の手を少しずつ減らしていくことが大切です。

大人の役割

おしごと

モンテッソーリは著書の中で「大人の仕事が生産的労働であるならば、子どもの仕事は人間を形成すること」と述べており、モンテッソーリ教育ではさまざまな子どもの活動を「おしごと」と呼んでいます 。

「おしごと」は何のためにするのでしょうか。

「おしごと」とは子どもが自分を伸ばすために行う活動のことです。

狭義の意味ではモンテッソーリの教具・用具を使って行う活動のこと、広義の意味では身の回りの環境と関わって行う活動のことを言います。

子どもを成長させる5つのステップ

モンテッソーリの5分野

敏感期

子どもが何かに強く興味をもち、同じことを繰り返す時期をモンテッソーリ教育では『敏感期』と呼んでいます。

敏感期とは、生物の特に幼少期の一時期にあらわれ、環境の中の特定の要素やある刺激に対して特に鋭敏な感受性をもつ一定期間のことで、恒久的に続くものではありません。 最初に注目したのは、オランダの生物学者であるヒューゴー・デ・フリース(1848-1935)で、敏感期という生物上の事実を人間教育に取り入れたのは、モンテッソーリが初めてです。

成長に応じて敏感期が次々とあらわれ、ある敏感期がすぎると別の新しい敏感期があらわれます。自然がその時期の子どもに特別な力を与えています。

言語の敏感期

子どもはどんな国の言葉もいとも簡単に習得できます。

  • 1歳ぐらいの子ども
    何かを伝えようと窓越しにゴーヤや花を指さし、何度も「うーう」と発音をしていた。
    しばらくしてまた窓へ行き、指をさし、何度も発音していた。
  • 3歳~4歳ぐらいの子ども
    文字に興味を持ちはじめ、ひらがなを書く事に夢中になっている子どもがいた。
    大人が周りでおしゃべりをしていても、お母さんが何度声をかけても、書き続けていた。

秩序の敏感期

順序や場所、やり方、位置などにとてもこだわります。
いつも同じことは、この時期の子どもにとっては安心感につながります。

  • 1歳8ヶ月ぐらいの子ども
    いつもはアイスを買うとその場で食べていたが、ある日外出先でアイスを買い、ベビーカーに乗せて帰ろうとしたが、椅子に座って食べると言い、椅子に座って食べてから帰宅した。子どもの中での流れがあり、それを主張した姿である。

運動の敏感期

自分の意志で体を動かせるように調整する時期で、2歳頃になると「自分で!自分で!」と何でも自分でやりたがります。

  • 生後8ヶ月の子ども
    仰向けに寝転がったまま、片手でクッションを引き寄せ、両手両足を使って持ち上げる動作を繰り返していた。

    クッションを離して近くに置くと、同じ行動を行い、数日続いた。また、仰向けで寝ている時、両足を上げたまま上下に何度も動かす姿が数週間見られた。
  • 1歳8ヶ月の子ども
    紐を使用して車や動物をくっつけるおもちゃがあり、まだ一人で紐を通すことは出来ないが、穴から少し紐を出すと自分で引っぱることが出来、何度も繰り返す姿が見られた。普段笑顔の多い子どもだが、じっとだまったまま真剣に紐を通しており、熱中している表情が見られ、紐が通ると満足し、満ち足りた表情をしていた。

感覚の敏感期

バーチャルな体験ではなく、五感を使った、さわる、見る、聞く、嗅ぐ、味わうといった実体験をたくさんさせてあげましょう。

  • 生後7か月、8ヶ月の子ども
    様々なものに興味を持ち、リモコン、携帯電話、デジタルカメラ、腕時計などに何度も触り、自分の指やおもちゃもよく口に入れていた。ゴザが敷いてある上に子どもがいる時、ゴザを爪でカリカリし、ゴザをめくったりすることを繰り返す姿も見られた。また、カメラケースのマジックテープの部分に興味を持ち、何度も付け外しを繰り返していた。
  • 2歳前後の子ども
    外で遊ぶ際、公園で石を見つけては台などの上に並べ、シロツメクサなどの花を摘んでは椅子などの上に並べる姿が見られた。物を並べる姿が多々生活の中で見られるようになり、やがて並べる姿があまり見られなくなった。

発達の4段階(いのちのリズム)

モンテッソーリは子どもの発達を24歳までの期間で考え、0~24歳を4段階に分けました。

一生の中で顕著な発達は最初の24年間で、その後は内面的に成熟します。

大きく成長、変容する時期で、敏感期が集中する時期でもあります。

  • 0~3歳:無意識的吸収の時期
    良し悪しに関わらず、すべてスポンジのように無意識に吸収します。

    どのような物的環境、人的環境に身を置くかに大きな影響を受けます。
  • 3~6歳:意識的吸収の時期
    意識的に吸収するようになります。この時期に大切なことは、自分の五感を通した原体験です。

    本物に出会う機会、五感を通して体験する機会をつくりましょう。

友達が大切になる時期で、仲間と過ごすようになります。
幼年期に原体験を沢山経験した子どもは、それをベースに知的欲求が高まり、思考力、想像力が豊かになります。
モラルと道徳心が育まれ、白黒はっきりしたグレーゾーンのない時期です。

思春期はホルモンの変化が大きく、幼年期と同じように心身の大きな変化があります。
友達に受け入れられているか否かが重要で、心の不安にもつながります。
モンテッソーリは幼年期のニーズを十分に得られなかった子どもの多くは、思春期に何かの問題行動を起こす場合があると言い、幼年期と思春期の関連性を指摘しています。そして、思春期前期には、自分たちの手でいのちを育て、いのちの循環を知ることができる農業が合っていると考えました。
また、この頃ボランティアをするなどコミュニティのために何かを行うことへの関心が出てきます。

上記のように思春期を過ごすと地球人としての意識が芽生え、自分の好きな分野で社会に貢献することを考えられるように成長します。

モンテッソーリ教育理論を用いた父親向け育児ガイドブック

父親が子どもの未来を輝かせる

百枝義雄 著(吉祥寺こどもの家 園長)2012年 ソフトバンク新書

父親の視点から語られるモンテッソーリ教育の基本と原則の本です。

現代日本の男性は育児経験に乏しく、子どもの発育メカニズムに関する知識も少ない為、育児に非協力的な父親が多いと言われています。しかし、育児に必要な正しい情報を得て、父親にしかできない“家族マネジメント”を実践することで、子どもの能力や可能性を大きく伸ばすことが出来ます。

モンテッソーリ教育の専門家が、父親にしかできない大切な『役割』や育児の悩みを解決する『ヒント』を伝えます。